被災地の元気企業 40
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水産業の復興に向けた課題と方策監修委員渡辺泰宏未曽有の大災害の東日本大震災から4年近く経過する中で、国、別けても復興庁のご尽力により、復興への道筋が着実に進んでいる。我々経済界も、雇用の確保や会員企業を始めとする企業の経営支援活動に、一層注力したいと感じている。ところで、今回の大震災では、ともすれば岩手・宮城・福島県に目が向きがちであるが、青森県の八戸市の企業も甚大な被害を受けた。その一つに、「武輪水産㈱」がある。同社は1948年の創業で八戸港産のイカ・サバ等の原料を加工販売する水産会社で、国内は無論、海外も米国向けに認証の難しいHACCPを取得して輸出を進め、確実に業容を伸ばしてきた。ところが、大震災により、海に近い工場が壊滅的な被害を受け、解体を余儀なくされた。それでも工場の従業員35名を解雇せず、他の自社工場に振り分け雇用を確保して生産販売を継続したのだ。その結果、震災と同年の2011年10月に、同社製品の「鯖スパイシーマリネ」が「農林水産大臣賞」と「がんばろう!日本賞」のダブル受賞の栄誉に浴している。東北経済連合会では、同社の新規開拓販路支援のために、当会の支援組織である東経連ビジネスセンターを通じて、販路開拓や商品開発を支援した。顧客層の絞り込みや、商品名やパッケージ等にも改良を加え、新たに「八戸さばスパイシーマリネハム」と名称も変え、仙台市の著名百貨店等で販売したところ、大変な人気を博した。皆さんにも、この名前で検索して頂き、是非ご賞味頂きたい。震災により、東北の水産業は大きな打撃を受けた。農林水産業全体の被害額の約2兆4,000億円の中で、水産業関係は、ほぼ半分の1兆2,600億円に上るという。復興庁のアンケートによれば、被災した漁港の6割で陸揚げ岸壁の機能が回復し、約9割が陸揚げ可能となった。水揚げも7割まで回復し、水産加工施設も8割まで業務を再開したが、震災後に喪失した販路が戻らず、岩手・宮城・福島の3県で震災直前の売上げ水準まで回復したのは、わずかに8%、8割以上回復したところも28%にすぎない。ここで重要なのは、経営者が自らの強い意志で苦境を乗り切ろうとする姿勢と、これに共感する支援チームの存在であろう。販売戦略と海外展開に揺らぎのない「武輪水産㈱」の例を見るまでもなく、震災をばねに、危機をチャンスに変えようとする企業を官民共同で支援することが復興の先導事例につながると信じる所以である。コラム(一般社団法人東北経済連合会専務理事)70

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