被災地の元気企業 40
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課題克服のポイント ポケットガイガーの開発から得たプレゼント ヤグチ電子工業は、従来から高い加工技術と活発な改善活動において、生産委託をする大手メーカーから高い評価を得ていたが、それは製造現場の枠内に限られたものであった。しかし、ポケットガイガーの開発を通じて、ヤグチ電子工業の従業員は工場を飛び出し、多くの大学研究者と出会い、交流を深めるとともに、利用者の生の声にも多数触れる経験をした。その結果、研究者や顧客など外部者と関わりながら、新たな取組みにチャレンジする風土が社内に根付くというプレゼントを得た。 スピーディーな対応で 大学研究者の信頼を得る 今後の課題と挑戦 新製品「モニタリングポスト」と 「ホワイトスクリーン」の販売開始 ヤグチ電子工業では、新製品「モニタリングポスト」および「ホワイトスクリーン」の販売を2015年春に予定している。 販路と人材で抱える課題 【名 称】 ヤグチ電子工業株式会社 【住 所】 宮城県石巻市鹿又字嘉右衛門301 【代表者】 代表取締役 渡邊 俊一 【連 絡】 TEL:0225-75-2106/FAX:0225-75-2071 【 H P 】 http://www.yaguchidenshi.jp/index.html 【 E-mail 】 info@yaguchidenshi.jp なぜ、日本各地の大学研究者が開発型メーカーとしては歴史が浅いヤグチ電子工業に共同研究を依頼するようになったのか?それは、大学研究者からの試作依頼等の要望にスピーディーに対応するからである。 通常、大手企業は社内決裁手続等に多くの時間を要する。一方、ヤグチ電子工業は、研究部門の担当者に多くの権限を委譲しており、大学研究者の依頼に即座に対応し、大学研究者の信頼を得る。この結果、大学研究者の基礎研究スピードが上がることで、ヤグチ電子工業による研究成果の実用化時期が早まり、また、実用化における課題克服の過程で、信頼関係を築いた大学研究者から手厚いバックアップを受けられるというメリットも享受することができるのだ。 このように新製品の開発を活発に行っているヤグチ電子工業であるが、新製品の販路確保とユニークな人材の確保が現在の課題である。この課題に対し渡邊氏は、「この石巻の地で、新たな取組みにチャレンジするという風土を醸成させることで会社は魅力的になり、その結果、顧客や新たな人材を惹きつけることができる」と信じている。 渡邊氏のチャレンジングな取り組みはこれからもまだまだ続いていく。 「モニタリングポスト」は、慶應義塾大学との共同研究によって開発した固定式放射線量計である。ポケットガイガーの技術を応用してイニシャルコストを低く抑えるとともに、太陽光発電および通信料のかからない920MHz帯の無線の利用により、ランニングコストまでも低く抑えている。自治体や風評被害に悩む農家・酪農家の利用が期待できる。 また、「ホワイトスクリーン」は、特殊なメガネをかけて見る液晶ディスプレイだ。これは、北里大学との共同研究によって開発した液晶技術で、小児弱視の治療機器としての利用が期待できる。ここでいう小児弱視とは、網膜は正常だが眼からの情報を処理する脳の機能が未発達なため鮮明な映像が認識できない病気だが、早期トレーニングによって視力の改善が期待されている。 片目弱視の場合、脳が無意識に正常でない片目を使わないようにするため、正常でない目だけでのトレーニングが必要だが、弱視の片目のみレンズを通してホワイトスクリーンを眺めることでトレーニングになるのだ。例えば、幼児がホワイトスクリーンによるタブレットでゲームに夢中になっている間に、弱視の回復が期待される。 モニタリングポスト 51

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