被災地の元気企業 40
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挑戦事例 ものづくり産業、石巻市 2009年に神奈川県相模原市より移転し、石巻市で電子機器加工を手掛けるヤグチ電子工業㈱は、受託生産型から開発型のメーカーへと軸足を移し生まれ変わった企業だ。従来、大手電機メーカーからの受託生産が主な業務であったが、現在では日本各地の大学研究者と共同研究も行っており、その成果として自社開発の新製品を生み出している。 ヤグチ電子工業が生まれ変わったきっかけは、スマートフォン接続型の簡易放射線量計である「ポケットガイガー」との出会いだ。ポケットガイガーの開発は、福島第一原発の事故による住民の不安が高まるなか、「誰もが手軽に自分が暮らす地域の放射線量を調べることができ、安心して暮せる世の中にしたい」という想いから、社内のシステムエンジニアを中心に外部の大学研究者も参加し組成された非営利組織「Radiation-Watch.org」によって行われた。 開発は、技術を全てウェブ上で公開する形で進められ、取り組みに賛同する研究者や企業がボランティアベースで協力した。また、ポケットガイガーの利用者もフェイスブックを通じて利用者目線の意見を投稿し開発に協力した。この結果、低価格かつ使いやすい放射線量計の製品化を実現、これまでに5度のモデルチェンジを経て約5万3千台が販売され、広く普及している。 ヤグチ電子工業は、このプロジェクトにおいて量産設計等を担当するテクノアソシエ社とともにプロジェクトを強力に推し進めた。開発過程おいて全面的に関与するとともに、量産過程では低価格での組立加工を担当した。「ポケットガイガーとの関わりは、単なるボランティア活動ではなく、当社にとって多くの人との出会いの場だった」と、代表取締役の渡邊氏は語る。 受託生産型から 開発型のメーカーへ 取り組み(事業内容) ビジョン ● 技術を信頼に変え、信頼を「カタチ」にする マッピングされた線量データを ユーザー間で共有 放射性物質の放射線量やバランスは、木の茂り具合、土壌や建造物の状況など周辺の環境によって、1メートル動いただけでも大きく変化す ヤグチ電子工業株式会社 ヤグチ電子工業の挑戦 ステークホルダーとの積極的な連携と 迅速な対応力を活かして新製品の開発に挑む ポケットガイガーの強み ポケットガイガーは、スマートフォンに接続しアプリを起動することで、自身による測定結果を見ることができる。さらに、測定結果はアプリによって位置情 る。しかし、自治体や政府によるモニタリングポストは全国に数千ヶ所しか存在しないため、細やかに各地の放射線量を監視することができない。そこで個々人がポケットガイガーを持ち、測定データを多数の利用者がシェアすることで、独自の放射線監視システムが構築されている。 ヤグチ電子工業 (開発支援) (組立加工) テクノアソシエ (量産設計) (資材調達) Radiation-watch.org (開発) (販売) 顧 客 研究者 企業 顧客 仕入先 協力 委託 加工 組立 販売 委託 調達 調達 ポケットガイガー製造企業相関図 報とともに他のユーザーと共有され、地図へのマッピング機能によって、各地の線量状況をモニタリングできるシステムになっている。 代表取締役 渡邊 俊一 氏 50

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