被災地の元気企業 40
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被災地復興に必要なイノベーションとは監修委員大滝精一被災地に求められる直近の課題は、企業のバリューチェーンの再構築である。この「被災地の元気企業40」でも報告されているように、被災した企業の中から、新たな販路の開拓や新商品の開発、さらには新ブランド構築や個別企業の枠を超えて地域の業界の再編に挑戦する企業群が出現していることは頼もしいかぎりである。今後はこうした流れの先に、水産加工業、農商工連携、あるいは再生可能エネルギー等の分野で、被災地の課題に対応した産業イノベーションが続くことが期待される。また、東北地方競争力協議会では、産業復興の柱として、国際リニアコライダー(ILC)や福島県廃炉・ロボット研究などの8プロジェクトを提唱しているが、その行方にも注目したい。復興まちづくりと産業再生とが手を携えて進んでいくためのカギは、クロスセクター、すなわち自治体、企業、NPOと住民が協力できる拠点の構築にある。ハリケーン・カトリーナ後のニューオーリンズの産業再生を見ると、ハリケーン前後に当地にやってきた起業家の存在と、彼らを支援するセクターの壁を超えた連携の拠点の存在が大きいことがわかる。「アイデア・ビレッジ」や「ルイジアナ財団」のような起業家支援のネットワークを推進するNPOが官民の境界を超えて活動することをきっかけに、2010年以降、当地は新たな起業のまちに変貌しようとしている。東北の被災地の中にも、仙台市の「(一社)MAKOTO」や石巻市の「(一社)ISHINOMAKI2.0」のような団体が、コワーキングスペースを設け、多様な人材が交流し知恵を出し合う刺激的な場をつくっている。各地の拠点大学もセクター間連携の要の役割を果たそうとしている。復興を加速させるためには、小さくともこのようなクロスセクターの拠点と、そこでのイノベーションを担う人材の育成が欠かせない。新たな復興の段階を迎えたいま、ソフトなクロスセクターの拠点形成に、もっと資金と人材を振り向けるべきである。コラム(東北大学大学院経済学研究科教授)15

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