被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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82 当社が手掛けた木造仮設住宅 震災後、プレハブの仮設住宅は、組立が容易であることから多くの仮設住宅で建設された。しかし、被災者の癒しとなり、環境の厳しい北東北に尐しでも快適な住環境を提供するには、断熱性能が高く内部結露を防止できる木造の仮設住宅が望ましいと考えた。本格的な木造仮設住宅の建設が始まると、当社は地元材を活用した木造仮設住宅の建設に奮闘する一方、地元材の低コスト・低リスク化に向けた技術開発、そして地元材を活用した新たな製品開発にも本格的に取り組み始めている。 '3(チャレンジ'挑戦( 地元材による木造仮設住宅建設は、当社の日當専務が仮設住宅の建設を担った工務店の全国組織である「工務店サポートセンター(現JBN)」の岩手県の建設責任者に任命されたことがきっかけであった。また、木材の需要拡大とPRに力を注いできた木材業界の若手経営者による「日本木材青壮団体連合会(木青連)」に所属していたことから、JBN・木青連との繋がりを活かして、業者選定・資材確保・行政対応を素早く開始し、宮古市、洋野町、田野畑村の3市町村に建てる109戸分の資材や資金調達に奔走した。 震災後の住宅供給においては建築人材・資材の確保は常に綱渡りであった。そのため、人員確保面で大事にしたのが、地元の工務店・大工が共感できるコンセプトの構築であった。それは、「地元の工務店・大工が地元材を活用して建設できる住宅づくり」であり、「地元の大工が地元材を使うことで被災地の経済を循環させることにつながる」という理念を盛り込んだものである。また、住宅資材の面では、自社の製材能力を超えるものについては近隣の岩手県内の同業者の協力を得ることに加えて、木青連に所属する全国の同業者から多くの情報や支援を受けた。その結果、震災直後50日程度の工期がかかると思われる中、当初不可能と思われていた30日工期を実現することに繋がったという。日頃から気軽に相談でき、志を同じくする「仲間」が財産となり、直面した課題を克服するうえで大きな支えとなったという。 木造仮設住宅の建設にチャレンジし事業再建を図る一方、地元国産材の需要拡大を目指し、低コスト・低リスクの国産材の技術開発にも着手している。例えば、これまでアカマツ材はカビ防止のため、夏ではなく冬に伐採していたが、夏でも伐採後2週間以内に製材することでカビ発生を防止することができるノウハウ等を習得。その結果、低リスク化に関わる技術課題の多くは克服されつつある。ただし、倉庫業者にアカマツ材の保管倉庫をカビ防止仕様に変更してもらう必要がある等、関係業者の理解と協力が不可欠である。そのため、次の段階としてサプライチェーン上の関係主体間とうまく連携して低リスク化を図る取り組みに注力している。木材の流通改革も低コスト化に向けた企業間連携の取り組みの一つ。これまで製材の計測作業は人手を介して実施していたが、これをデジタル化し省力化につなげることでコスト低減を図るとともに、トレーサビリティによる地域材の産地証明によって消費者への訴求力を高め、安心・安全な地域材の需要拡大を目指している。 1社単独では解決し得ない課題でも関係主体で相互に調整・協力することで低コスト化・低リスク化のハードルは低くなる。現在は試行的な取り組みが中心だが、地域材のストーリーを意識した木製品グッズの開発も手掛ける。地元材を使うことが、高品質につながるだけでなく、愛着のある製品・住宅づくりにつながると考え、地元材による新たな価値創造に今後もチャレンジしていくという。 '4(エッセンス'大切なこと( 当社の復興の歩みにおいては、①関係者が共感できるコンセプトや理念、②1社単独ではなく思いを共有する組織や他社との連携、そして、③それを担保する常日頃のネットワーク作りが再興を果たす上で極めて重要なものであったことがわかる。

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