被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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78 は明白でも、品質にこだわり養殖用飼料の質は決して落とさなかった。放射性物質の検査体制を整え、ギンザケ等の切り身を求める流通業者の注文に即応する等、高い品質と顧客重視を貫いた。現在、落ち込んだ売上の回復と販路開拓に向けてチャレンジを続けている。 '3(チャレンジ'挑戦( 当社が震災後に特に力を入れているのが、ギンザケの生食用展開と「黄金牡蠣」のブランド化である。 鈴木専務は「付加価値を高めるには刺身商材として打ち出していくことが必要。現在、チルド・真空パックの状態で出荷しており評価も上々。相応の価格で販売できている」と手ごたえを感じている。こうした下地をベースに更なる販路開拓・規模拡大に向けて、当社は通年販売可能な生産体制を整える。その一つが、「プロトン凍結機の導入」である。プロトン凍結機は品物が凍る時の「氷の粒」を出来るだけ大きくしないようにし、凍結务化を抑えながら凍結できる。その結果、品物の細胞破壊を防ぎ、ドリップも尐ない。鈴木専務は「生食用ギンザケを高度な冷凍で凍結すれば、年間を通して販売が可能となる」と展望する。ただし、課題もある。刺身用にはスキンレスロイン(魚を三枚におろして、中骨・皮を除いたもの)が必要だが、小骨取り機(ピンボーンリムーバー)でも7~8割程度しか処理できず。100%の処理には人手をかけるしかないという。また、生産規模の拡大も簡単ではない。現在、区画漁業権と環境規制により1経営体あたり4基までしかイケスを持つことができない。当社の場合、養殖経営体は1つなので4基しか持つことができず、生産拡大には限界がある。そのため、販路先には大手量販店ではなく、地場のスーパーや回転寿司チェーンの開拓に力を入れている。鈴木専務は「規模拡大に頼らず、高付加価値商品をスーパーや外食との連携しながら取り組んでいく」と語る。 当社のウリはギンザケだけではない。当社が加工・販売する三陸産のカキは、濃厚な味わいとぷりぷりとした食感が特徴で高い評価を受けてきた。それを可能にするのが地元の排水処理設備メーカーが開発した「オゾンマイクロバブル洗浄法」である。この殺菌技術の導入によって従来の塩素や紫外線を使用する方式に比べて短時間に効率的に殺菌でき、カキに与えるダメージも尐ない。殺菌後も長時間、高鮮度で保存できる。結果として、一年を通して高品質な生食用牡蠣を安全に提供できる。1996年に同洗浄法を導入して以来、食中毒等の事故やクレーム件数はゼロを保っているという。 当社は震災後、新たな価値を創出するためカキのブランド化を推し進めた。質や形のいいカキを厳選し、石巻市の離島である金華山黄金山神社にちなみ「黄金こがね牡蠣がき」と名付けて消費者(直販)や外食向けに販売を開始。「黄金牡蠣」の魅力を高めるため新商品開発にも着手。従来から付き合いのあったレストラン「バティチ(東京・赤坂)」の上原哲也シェフの協力のもと、家庭でも簡単に作れるカキ商品を開発。2013年2月に大阪で開催されたシーフードショーでは開発した商品の1つである「牡蠣のグラタン インペリアル風」の試食会を実施。「カキ本来の味も楽しめる」「ワインに合い高級感がある」など評判は上々であり、全国から注文が舞い込むようになった。現在、開発商品の生産・販売体制の構築に取り組んでいる。鈴木専務は「以前から独自に販路を開拓してきた経験が消費者の求める製品づくりに活きている。震災をチャンスにしたい」と力強く語る。 '4(エッセンス'大切なこと( 当社は震災後も「安全安心かつ高品質の商材'ギンザケ・カキ(の提供」というスタイルを貫き、風評被害の逆風の中、新たな商品開発や販路開拓で成果を出している。生産・加工・販売の一貫体制の下でコツコツと積み上げてきた高品質なものづくり力と販路先とのネットワークが成果を生み出す原動力となっている。 「牡蠣のグラタン インペリアル風」

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