被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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66 さい企業が多く、顧客から設計図面をもらってその通りに作る業務を行ってきたため開発力が不足している。顧客企業からの新規受注に繋げるには大手企業の研究開発段階に入り込むことが近道。そのためには横の連携を深めるだけではなく、大学との連携を強化し開発力を高めることが必要であった」と松本所長は振り返る。 '3(チャレンジ'挑戦( 2つの協議会の活動は着実な成果を生み出している。「足こぎ車いす」の改良技術の開発はその一つ。「足こぎ車いす」は脳卒中で半身が麻痺した人や腰痛・膝関節痛などで歩行困難な人でも、自身の両足でペダルをこぎ自由に走り回ることができる介護福祉機器として、2009年に㈱TESS(東北大学発ベンチャー企業)によって商品化された。現在は世界初の画期的な介護福祉機器として数々の賞を受賞するに至っているが、発売当時は車輪の左右への回転運動をスムーズに行うための更なる改良が必要であった。TESSは社員数4名の会社であり、技術者がいなかったため、技術的課題を解決できる会社を探していた。そこで当社は、会員企業である日本オートマチックマシン㈱と㈲タカワ精密と福島大学とともに「足こぎ車いすの改良プロジェクト」を立上げ、改良技術の開発を進めた。震災によって一時は中断に追い込まれたものの、粘り強く取り組んだ結果、自動車等に使われるディファレンシャルギア(差動装置)の仕組みを用いて車いすが回りやすいように車輪の回転数を調整することに成功。ここには、産業用機械の研究開発を専門にする日本オートマチックマシンの技術が活かされた。他方、精密機械の設計から製造までを手掛けてきたタカワ精密はこの差動装置を軽量化し、小さい力でも作動できるようにした。そして、南相馬の企業グループは差動装置の様々な耐久試験をクリアし、2013年に製品化させた。差動装置の成功によって「足こぎ車いす」の商品力は向上し、左右どの方向にもスムーズに回れる商品として多くの人々に希望を与えている。この成功は技術的課題に対して技術を有する企業が連携して初めて可能であった。その意味で地場企業を結び付けるコーディネート役を担った当社の役割は決して小さくはなかった。 ロボット産業協議会では、地域性と会員企業の技術的強みを考慮し、「福祉」「除染」「災害」分野のロボット技術や新製品の開発に取り組んでいるが、その一つに水中ロボットの改良開発がある。水中ロボットは猪苗代湖の底泥を回収し、放射性物質の有無を調査するプロジェクトのために開発されたが、その改良化の過程では会員企業の技術者が協働。松本所長は「通常であれば競合関係になりうる会員企業同士が同じ現場で技術を持ちよりながら実験機の製造と不具合に取り組んだ」と言う。機械加工の世界は職人的な性格を有し、加工設備や製造された製品だけを見ても企業の製造ノウハウは見えにくい。ただ、複数の技術者が会して同一製品の製造工程を分担すれば技術レベルは知られてしまう。それでも敢えて取り組むのは、会員企業間で将来への危機感が共有されているからだという。 '4(エッセンス'大切なこと( 本事例は大企業の下請けからの脱皮がこれまで以上に求められる中、地場企業が連携して新たな販路を開拓する取り組みである。当協議会は厳しい事業環境の中でも着実に歩を進めているが、成功には会員企業間が目的意識を共有し、連携のメリットを互いに感じることが必要。その意味で当社が果たす役割は今後も極めて大きい。松本所長は「ロボット分野で一つでもヒット商品を生み出せれば地域の製造業の活性化に繋がる。今後も会員企業間が目的を共有し、様々な共同開発に取り組めるようサポートしていきたい」と力強く語る。 TESSが商品化した 「足こぎ車いす」 水中ロボットの開発風景

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