被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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64 移している。その結果、部品等の国内生産は先細りが見込まれている。一方、医療分野、ライフサイエンスは、機器の小型化・精密化や自動化が進んでおらず、付加価値も高く、地場企業にも差別化のチャンスがある。そこで、当社は医療・バイオ分野に進出することとした。まず、プラスチック製の動力装置技術により、歯科用の電動注射器、試薬など尐量の液体を高精度で供給する分析機器装置、小型・軽量の自動点滴装置等を開発し、大手企業に部品納入するビジネスを行った。次に、当社は検査装置分野で最終商品の自社ブランド販売に挑戦することとした。これが、世界初の「ペン型」の電動ピペット開発・販売である。 ピペットは尐量の液体を吸い取って計量し、プレートに滴下するのに使用されるスポイトのような道具である。従来の手動ピペットは重くて作業性が悪く、医療従事者の腱鞘炋が問題になっていた。そこで、医療や製薬の現場で作業負担を軽減するべく使いやすさを向上させながら精度を維持し、小型・軽量化したものがこの商品である。販売は、医療機販売会社を通じて行っている。 当社は商品開発を次のように進めている。まず、①適切なニーズ把握である。ベンチャー企業の多くはシーズ中心に商品を考えがちだが、当社は、官公庁が主催する研究会で大学の先生、病院等ユーザーに直接接触し、企業ニーズにあう製品を大学と連携して開発するよう心がけている。次に、②研究開発と知財権対応である。研究開発は、岩手大学等と産学連携で共同開発し、学生等もインターンで活用する。また、取引の過程でノウハウだけが流出しないよう開発した技術は特許出願で知財権を押さえることで技術面の差別化を図っている。そして、③公共機関の制度活用である。研究開発は、最大限各種補助金を利用することにしている。当社立ち上げ期には、岩手県のいわてインキュベーションファンドからの資金調達を大いに活用した。また、一般的に研究開発の補助に比べて事業化支援の支援制度が尐ない中、経済産業省のものづくり補助金を活用して生産体制の一貫化を図った。 最後に、④販売体制の確立である。「ペン型」電動ピペットの販売は、初めての自社ブランド販売であり、当社にとって最大の挑戦であった。まずは営業拠点として東京支店を開設し、企業のニーズをつかみ自社製品納入を目指している。カタログ販売では上手く商品の良さが伝わらないため、ユーザーへの直接の接触が大切と考え、病院や大学などの生化学検査や製薬、食品、化学等、幅広い分野で活躍している液体を使う研究者を中心に営業活動を行う予定である。また、医療・バイオ分野の研究開発の集積のある首都圏で医療研究現場の課題をマーケティングすることにより、当社の精密技術を用いた開発の提案も行う予定である。営業人材については、当社のプロパー人材の他、ライフサイエンスに精通した人材を増強し、コンサルタント契約を結んだ専門家を活用する。当社の片野社長は「東北の企業の課題は、マーケット情報をとるという売る発想が弱いこと。従来の下請製造業のように大手から図面・仕様書をもらう発想では生き残れない。東北から製品を生むための努力が必要である」と考えている。 '4(エッセンス'大切なこと( 当社の「ペン型」電動ピペット 当社の取り組みは、①産官学連携で開発、部品製造、組立、販売を分業するオール地域の取り組みである点、②マーケット密着の適切なニーズ把握と技術の差別化に着目した生き残りの取り組みに特徴がある。当社は、産官学連携で、大学のシーズ、公共の支援制度を研究開発のみならずニーズ把握・ネットワーク形成も含めてとことん活用し、また、マーケット密着型の適切なニーズ把握と、知財権戦略による技術の差別化によるしたたかな生き残りの取り組みが特筆される。

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