被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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60 立させる生産体制、必要なタイミングに合わせて必要な数量だけ商品を供給できるタイムリーな効率物流システム、そして、多種な情報から優れた感性でファッション・トレンドを捉える商品開発力を構築してきた。当社は、試行錯誤を繰り返しながら、独自に作り上げたこの仕組みに更なる磨きをかけ、消費者ニーズの変化が激しいファッション市場において多くのファンを獲得してきたのだ。 '3(チャレンジ'挑戦( 「高感度、高品質、リーズナブルプライス」というキーコンセプトが示すように、当社製品の命はその手頃な価格だけではなく、高いファッション性にある。江尻社長は低価格追求の仕組みだけでなく、継続的に高いファッション性を有する商品を開発するための仕組みにも力を入れてきた。商品開発では、流行を「作る」のではなく、流行を「追いかける」というスタンスをとっている。そのためには最新のファッション動向を現場に行って捉え、それを反映した商品を迅速に作り、できるだけ早く店頭に並べる。商品の回転率を上げることによって流行を逃さない。 当社の商品開発は1週間単位で一つサイクルを回す。月曜日は企画テーマを決定、火曜日は企画テーマに関する情報収集、水・木曜日に企画会議を行い、金曜日に生産委託先の中国工場に発注するという流れだ。注目したいのは、消費者ニーズを的確に把握するために徹底した情報収集を実施していることだ。本社にいる16名のデザイナーは毎週火曜日に東京の原宿、渋谷、新宿等に行き、7~8時間かけて道行く若い女性のファッションを観察する。同時に他店の商品ラインナップとその売れ筋を確認しながら自分の感性も磨く。江尻社長は、「クリエイティブなファッションを提案するには、デザイナー自らが現場に行き感性を磨くしかない」と語る。 当社は各店舗からPOSデータや店舗販売員の報告を通じて売れ筋情報を素早く収集し、企画にフィードバックしている。また、婦人服雑誌から経済雑誌、海外の雑誌などあらゆる雑誌を購入し、徹底的に分析する。同業他社が出すレポートや新聞に目を通したり、他のデザイン会社や生地会社とも連携したりする。情報収集において妥協はしない。 このようにして集められた最新の現場情報をもとにイラストやサンプルがデザインされ、企画書として企画会議に持ち込まれる。素材・色・柄・縫製方法・パターン等を新しく組み合わせたデザインは毎回300点以上提出され、議論を通じて70~80件に絞り込むという。企画会議には江尻社長も同席し、若い女性に交じって意見を出す。また、店舗の販売員の声も商品開発に取り入れるために、新製品の人気投票をデザイン画の段階で行うという仕組みも取り入れている。 会議で選ばれたデザインは翌日にCAD等で仕様書に書き換えられ中国の委託工場に送付される。縫製工場へは、毎週金曜日に1型あたり1万着前後というロットで40~50型ほどが発注される。「月1回の発注」が常識のアパレル産業において、当社の発注頻度は群を抜く。中国の縫製工場では、このデータをもとに生産が開始され、30~40日の間で出荷までこぎつけるのである。 '4(エッセンス'大切なこと( 当社は、スピードと新鮮さで勝負するビジネスモデルにおいて、時代の流れに逆らわず、時代の流れを読み取り、それに沿うことを大事してきた。それが可能なのは、徹底的な情報収集、中でも消費者の接点となる現場情報を様々な局面で収集し、それをフルに商品開発に活用しているからだ。他方で「若い女性がお小遣い程度の価格で買えるファッション性の高い洋服の提供」という基軸はぶれていない。消費者ニーズを的確に把握しつつも、企業内で変わらず共有化される価値観・コンセプトがあるからこそ環境変化に何をなすべきかというコンセンサスと行動規範が生まれる。これが当社の環境適応力の源泉となっている。「最も強いものが生き残るのではない。最も変化に敏感なものが生き残る」。当社はまさにこのダーウィンの言葉を地でいく企業である。

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