被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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44 月には経済産業省の「中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業(グループ補助金)」を活用して協力会社の工場を再建し、現在は被災前の生産体制を回復している。 '3(チャレンジ'挑戦( 当社の商品は、プロ用アイテムとして「品質」と「デザイン」が高く評価されている。ウェットスーツやドライスーツにとって「品質」とは、よいフィッティングのことであるが、当社は独自の解剖学的動体裁断技術(Anatomical Cutting Technology; A.C.T.)を持っており、これが品質の高さに繋がっている。また、デザインについては社内にデザイン専門部署を設置し、レジャー性の強いデザインを提案している。 保田社長はウェットスーツや完全防水のドライスーツで培った技術が様々な分野に応用できると考えている。救命具(イマーションスーツ、サバイバルスーツ)、水産関係の作業スーツ、オリンピック関係ではトライアスロンやフィンスイミング用スーツへの展開が可能である。保田社長は、高機能部材を使用したアパレル市場にも将来的に進出することを考えている。 当社は、こうした用途別の製品カテゴリーをブランド別に区別する戦略を立てている。例えば、スポーツフィッシング用品は「Reathリアス」ブランド、防水アクセサリー「CHOSチョス」などを震災以降、新たに展開している。 また、縮小する国内市場だけでなく、海外への販路開拓も積極的に展開している。宮城県の協力で日本貿易振興会(JETRO)の震災復興支援事業に参加し、2012年春にはマリンレジャーの拡大を見込んで上海の現地法人を開設、ウェットスーツの直接販売を手掛けている。ドライスーツについては寒い地方での売上が伸びるものと見込み、現在、宮城県の「極東ロシアへの輸出促進・観光客誘致プロジェクト」による支援を受け、ロシアへの販路開拓を進めている。 このように、オーダーメイド製品を現地で販売することになると、現地から送られてくる採寸データを使用して、フィッティングの良いスーツを作るための設計技術が決定的に重要になってくる。オーダーメイドとレディメイドで製造工程に違いはなく、採寸と型紙を起こすところのみが異なる。この工程を経ることで客単価が下がりにくい一品を拵えることができるわけだが、そのためには熟練の技能者の技と勘が必要になる。ところが、熟練の技能者を育てるには最低でも10年はかかるため、事業拡大と事業継続の観点からも、システム化が必要とされている。 震災前に、産業技術総合研究所(AIST)デジタルヒューマン工学研究センターが主催したセミナーに参加したことがきっかけで、当社から共同研究を持ちかけ、経済産業省の「ものづくり中小企業製品開発等支援補助金」を活用して研究開発を行うことになった。現在、採寸データから3次元立体モデルを構築する技術を開発中であり、従来職人の経験と勘に頼っていた型紙作成技術のシステム化に取り組んでいる。 '4(エッセンス'大切なこと( 当社は2014年に創業50年を迎える。現在は年商12億円の中小企業であるが、次の50年を経る時には年商1000億円の企業に成長することを大目標にしている。保田社長はその大目標から逆算して、10年後には100億円、5年後には20億円、来年は13億円という目標を示し、社員や地域の協力企業と歩んでいる。地域の復興に企業の立場でできることは協力企業も含めた雇用の場を確保することであり、そのために企業は成長しなければならないという信念で経営を実践している。 その成長戦略は、プロダクトイノベーション'ブランド戦略に沿った新しい製品市場(、プロセスイノベーション'技術開発(、海外販路開拓によって実践されている。そして、当社の新技術開発や販路開拓には、JETROやAISTなどの公的機関、県の企業向支援事業が上手く活用されている。 解剖学的動体裁断技術'A.C.T.(

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