被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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124 ながら街づくりを推進する方針が打ち出され、2001年に石巻市と市民の共同出資で当社が設立された。 震災の津波被害により中心市街地は一瞬にして7割が壊滅し、石巻のランドマークである石ノ森萬画館も深刻な被害を被ったが、2012年11月には再オープンを果たしている。また、北上川を挟んだ旧丸光デパート跡地には、2012年6月に仮設商店街「石巻まちなか復興マルシェ」がオープンし、当社はその運営も手掛けている。 '3(チャレンジ'挑戦( 中心市街地の復興整備については、持続可能なまちづくりの最先端モデルと石巻らしい景観・歴史・文化の薫る街づくり・街並みづくりを目的として、当社が事務局となって地権者等の関係者や関係団体との協働のもとで総合的に検討する「コンパクトシティいしのまき・街なか創生協議会(通称:まちなか協議会)」を2011年12月に立ちあげている。 まちなか協議会では、行政と連携しつつも民間としての街づくりの方向性を示した「街なか復興ビジョン」を2013年3月にとりまとめている。ビジョンの方向性として、①誰もが助かる安全安心な川湊“石巻”(防災・減災)、②“石巻人”のつながりがにぎわいを生むまち(生活・活性化)、③“石巻人”の挑戦が新たな産業を生むまち(産業振興)の3つの基本方針が掲げられている。この方針に従い、7つのテーマ(01防災、02にぎわい・商店街経営、03食、04アート、05生活・医療・福祉、06街なかの情報発信、07アクセス)を展開し、民間が主導、行政が主導、官民協働により実施、というかたちで役割分担を定めて様々なプロジェクトを実施している。 当社のタウンマネジメントは、域内外の専門家による情報提供機会を設けたり、関係者間の徹底的な協議を実施することで、プロジェクトを常に見直しながら進めていく点が特徴である。ほぼ毎日、何かしらのプロジェクトに関するタウンミーティングが行われており、参加者には当事者意識の高まりとともに、地域ブロックごとにリーダーとなる人材も輩出されてきている。 さらに2013年11月には、より具体的な中心市街地活性化方策の最新の提案書である「川沿い地区まちづくり計画案」が作成された。街なかの回遊性を高め、エリア間の連携を図るように生活支援施設、商業施設、文化施設等を配置するための計画案となっている。 このように当社の事業内容は多岐にわたるようになったため、財政基盤の確保が課題となってきた。当社では現在、石巻市が作成した「街なか再生復興特区」の個人出資に関する所得税控除制度を使って、新たな事業スキームを構築しようとしている。例えば、津波で販売先を失った市内の事業者のために石ノ森萬画館のコンテンツを利用してもらう版権ビジネスなどがそれである。当社は元来、市民出資者に対して配当はせず、収益はすべて中心市街地の活性化事業に充ててきたが、新しく出資を募るにあたって、コミュニティリターンのあり方やマイクロファンディング、種類株の活用など新たな資金調達も検討している。2013年度中の資金調達を目指しているが、成功すれば、TMOによる初めての復興特区法に基づく個人出資の特例適用第一号となる見込みである。 '4(エッセンス'大切なこと( 石巻中心市街地では、河川堤防の整備状況に合わせて生鮮市場を中心とした観光交流施設の整備を計画している。また、周辺には災害公営住宅の整備も計画されている。当社では、これらのハード整備に対して、街なかのソフトプロジェクトをいくつも立ち上げ、具体的な街づくりにつなげていく方針である。 「街づくりは事例を作らないと市民の関心も集まらない。利用者のニーズを常に考え、計画を何度も作り変えて身の丈にあった街づくりを進めることが重要である」と代表取締役である西條氏は語る。行政だけに頼らず、市民が作る新しい街のすがたが石巻で生まれようとしている。

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