被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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114 ることから1998年に生鮮部門を設立する等、業容を拡大してきた。震災では、本社含む5工場が壊滅した。 '3(チャレンジ'挑戦( 被災後は、商品を出し続けないと取引が切れると考え、とにかく復旧を急いだ。震災後すぐに、親会社と復興計画を協議し、事業再建には金融取引の正常化と資金繰りの安定が欠かせないと判断、取引銀行とも協議の上、財務体質改善を前提に建築規制のある本社工場を除く2工場を修繕して生産能力を回復させ、稼ぎ頭の「フカヒレスープ」に軸足をおいて収益を確保することとした。 まず、震災直後から社員のボランティアで工場の後片付け等、再開に向けた準備を自分たちで行った。電気や水道がなかなか復旧しなかったため、7月から氷を関東から仕入れて生鮮カツオ、鰹たたきの製造出荷を再開、9月には、修繕工事により製氷工場を再開し、同年10月より魚浜工場の修繕工事をはじめ12月には缶詰、レトルトパウチの生産を再開し、フカヒレを中心とした製品の出荷を開始した。製氷工場再建のためには、水産庁の水産業共同利用施設復旧支援事業を、魚浜工場修築には、経済産業省の「中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業を利用した。また、震災を機に二酸化炭素量の削減を図り環境に配慮した「省エネルギー生産」への転換を決断し、宮城県の「省エネルギー・コスト削減実践支援事業補助金を活用し、高効率蒸気ボイラーを導入した。復旧するまでに、他社に販売ルートを変えられてしまったケースもあり大変だったが、フカヒレスープについては当社ブランドという強みもあって販売ルート(棚)を確保できた。このように、被災3か月後に出荷を再開し、主力商品も9か月後には再出荷するというスピード感が、当社が事業を継続できた最大の理由である。 当社は、被災後生産能力が、震災前の1/3と大きく減尐してしまったため、当面生産する商品を売れ筋、利幅の高いものに絞ることとした。また、震災後、大きく売上減となることが予想されたため、組織の簡素化と臨時社員の採用による人員体制の変革などの経営合理化により、売上が小さくても利益を確保できる強靭な経営体質をつくることとした。雇用は震災前160名だった従業員を震災で一時全員解雇したが、その後営業再開に応じて再雇用を行い、現在76名まで回復している。今後も生産設備の復興に努め、2015年、本社工場を再建する予定である。なお、経営体質改善の取り組みとしては、中小企業基盤整備機構の「震災復興支援アドバイザー制度」を利用して、経営支援アドバイザーを派遣してもらい、当社の現状と問題点を整理し、経営計画の作成支援をお願いしているところである。当社の今後の課題は若年雇用確保であるが、親会社からの若年技能職者の受入に加え、就職希望者の工場視察実施等の業務理解の増進、労働条件改善等により対応する予定である。 今後は、気仙沼の地域性にこだわり、尐量多品種生産の特徴を活かした大手にはできない商品展開を狙いたいと考えている。水産加工は原料が同じであれば、どうしても似たような商品になりがちであり、差別化が難しく、他事業者との競争が激しくなる。当社は、気仙沼の地域性にこだわったフカヒレスープに続く、他社と差別化できる高付加価値商品を作るべく、(独)科学技術振興機構の復興促進プログラム(マッチング促進)を利用している。同プログラムではマッチングプランナーに当社のニーズと大学のシーズをマッチングしてもらい、非日常時でも快適な代謝機能を有する完全栄養レトルト食である「いつでもほっこり食」を宮城大、山形大の先生と開発した。機能は優れており、現在、適正な価格設定に向けて検討を続けている。 '4(エッセンス'大切なこと( 当社の取り組みは、①地域のニーズに応じた多角化と気仙沼の地域性を活かし、市場が求める自社ブランド製品開発、②親会社、金融機関と連携した速やかな復興計画策定による早期復旧と販路維持、③経営合理化と高利益率商品にしぼった再建、に特徴がある。特に、各種補助金を利用した速やかな復興と、アドバイザー制度を利用した経営合理化、新商品開発の取り組みが注目される。

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