被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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108 めに水の確保にも努めた。また、自治体や自衛隊からの要請で復旧資材を供給する必要があり、当社の自動車が災害指定車両の認定を受け、ガソリンを優先的に分けてもらうことができた。当時、自動車は白河までしか通行できなかったため、磐越道から新潟経由でメーカーやベンダーの倉庫まで調達に行った。 当社従業員の中には、津波や原子力事故で避難所生活を送っていて生活再建の見通しがたたない者もいたが、雇用の確保を約束し、車での送迎や避難所にいる家族の分まで毎日3回の配食を行うなど、働くという日常を取り戻すことで立ち直ってもらえるように最大限配慮した。こうした取組は従業員から大変感謝され、結果として仕事へのモチベーションを高めることにつながった。 '3(チャレンジ'挑戦( このような経験を踏まえ、当社は、ホームセンターや関連事業が地域に果たす役割について改めて気付かされることになる。資材や日用品を豊富に取り扱うホームセンターは、緊急時にはそのまま復旧対策拠点となり、地域住民の生活基盤を担うことになる。 当社店舗の多くは郡部に配置され、顧客も地域内にほぼ限定される地元密着型の事業形態となっている。そこで、いかに地域に貢献できるかをテーマに、そのアイデア出しからはじめることにした。店舗で働いているパートタイマーの多くは地元の人たちであり、地域に必要なモノ、サービスのアイデアについては彼らが一番理解していた。そこで、地元の人が何に困っているかを列挙し、各部門でやるべきことをリストアップし、全店舗で意識合わせをして販売活動に反映してすることになった。 こうした「地域に貢献する」という社是がそのまま当社の事業継続計画(BCP)の基本方針となる。例えば、当社ではペット専門店を展開しているが、災害時にはこのような専門店のニーズが高いことも新しい気づきであった。避難所内にはペットを連れ込めないなどの事情があり、ペットの収容施設が必要であったり、緊急物資には含まれないペットフードも必要になるなどの状況が発生する。当社のBCPでは、「災害時にこそ何を供給しつづけなければならないか」が現場の知恵として蓄積されている。 当社は現在、福島県や郡山市、福島県警と災害時物資供給協定を結んでおり、その内容は当社のBCPに組み込まれている。 財務面では、東邦銀行と㈱日本政策投資銀行などが設立した「ふくしま応援ファンド」の第1号案件として5億円の融資を受けたが、その資金は主に運転資金と店舗の修繕資金に充てられている。それまで当社は手元流動性比率を抑えていたが、震災以降は非常時の出費を想定して流動性比率を2倍にするなどの対応を取るようになった。 '4(エッセンス'大切なこと( 店舗内の「ご案内係」 当社は、震災後も積極的な事業展開を図り、現在、北関東ならびに東北圏に新たに13店舗を開設し、88店舗を展開している。地元志向の若者の採用も増え、採用数も高卒で10~15人、大卒で30~40人と年々増加している。この積極的展開には、原子力事故の影響で福島における商圏・商流の情勢が未だ見通せないため、将来の事業リスクを低減させるための意味もある。 そのような状況下において重要なことは、「地域社会への貢献」を、ビジネスを通じて実践していくことにある。例えば当社では、風評被害で売上が落ち込んだ地元の園芸農家の販路先として連携強化に取り組み、3年目にしてようやく園芸農家の売上額が回復するなどの成果を得ており、こうした取組が地域の信頼を生んでいる。

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