被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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98 窒素を削減したこの機能性野菜は「あいづMido菜」というデザインマークで商標登録され、口コミで注目されるとヨークベニマルで販売されるようになった。この小さな成功をきっかけにさらなる商品開発のため、他にも野菜を食べられない人たちがいるかどうかを調査したところ、人工透析や腎臓病患者がカリウム含有量の摂取制限のために生野菜や果物を食べられないことが分かった。 '3(チャレンジ'挑戦( 低カリウムの機能性野菜に関する研究では秋田県立大学の小川淳史准教授が特許を取っていた。しかし、大量生産の技術については課題があり、事業化までは進んでいなかった。当社は、ものづくり企業の特性を活かして植物工場でのレタスの生育環境に関するデータを徹底的に取得し、生育環境をさまざまに操作して、ついに低カリウムレタスの量産化に役立つ生育方法を発見した。当社の開発した低カリウムレタスは機能性野菜「ドクターベジタブル」シリーズの第1弾として商品化された。腎臓疾患のある患者でも安心して食べられる世界で唯一の機能性野菜が誕生した。まさに、患者にとっては福音となる商品だった。 人工透析・腎臓病患者は全国で33万人いるため、当社の生産能力では供給することは不可能である。そこで、当社はフランチャイズ契約による加盟企業とパートナーシップを組み、低カリウムレタスの栽培ノウハウをパッケージ化して加盟企業に提供することにした。パッケージでは、植物工場の設計・建築、レタスの生育方法などが含まれており、当社の社員が事業の立ち上げまで常駐してサポートするサービスになっている。加盟企業は2014年1月現在で4社(製造業が多い)となっている。フランチャイズ制の下、当社は加盟企業の工場で栽培した機能性野菜を全量買取し、品質チェックを行う。品質チェックは工場内検査、本部検査、第三者機関検査が行われ、細菌、放射能等について厳しく検査される。また、販路開拓についても当社が行うことになっている。このために、当社は2012年8月に従来の東京事務所を改組・移転して営業所を新たに開設し、デパートや病院を販売先として展開していった。 通常のレタスでは1玉120円くらいの販売価格となっている。このうち、生産者に回るのは30円くらいといわれている。低カリウムレタスは一袋90gで450円~480円で販売されており、生産者には170円~230円が支払われる。機能性野菜なので農家と競合せず、独自の市場ポジションを確立している。また、低カリウムレタスはクリーンルーム化で生育・梱包されるため、洗わなくても食すことができ、冷蔵保存で2週間は鮮度を保つという特徴を持っている。当社では、これを1ヶ月持つように技術改良しており、生食用ではなく加工食品用(サンドイッチやサラダ)の原料としての販路も開拓する予定である。 特許の使用を許諾した秋田県立大学は、当社の事業の社会的意義を鑑みて、通常であればロイヤリティ5%を課すところを10分の1に下げ、商品の普及や新商品の開発に役立てることに同意してくれた。当社では現在、レタスの他に低カリウムのメロン、トマト、イチゴなどを開発中である。これからも当社は製造技術を活かした野菜づくりに挑戦し続けると意気込んでいる。 '4(エッセンス'大切なこと( 当社は植物工場で規模の経済は目指さない。松永社長は当社の商品を必要とするお客様に安定的に供給でき、かつ、雇用を確保できればよいと考えている。もちろん、お客様の経済的負担を減らすためにコストダウンは必要であるが、植物工場の巨大化、機械化の方向は目指すことはせず、日本中で過剰になっている生産設備のコンバージョンやそこでの雇用の確保のために当社のソリューションが活用されていけばよいという考え方である。植物工場での作業は比較的短時間で済むため、退職者や高齢者の雇用の受け皿や、さらには、商品のユーザーである人工透析患者の雇用の受け皿になれば、コストダウンと雇用の両立は可能である。 このように、当社の取組は単なる工場の再生ではなく、社会的イノベーションとして位置づけられる。

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