被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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88 企業コラボの取り組み'復興支援パーカー( '3(チャレンジ'挑戦( この仕組みを実現するにあたっては、いくつかの課題があっ た。①スピーディな支援を明確かつダイレクトな形で実現する こと、②支援内容を直接的で目に見える形にすること、③漁師 の合意を形成し、適切に資金を配分する仕組みをつくること、 ④支援者を集めることである。①については、従来のようにチャ リティイベントや支援Tシャツ等で集めた義捐金を大規模な人道支援組織を通して支援するのではなく、小回りが利き、スピーディに対応できるADBOAT JAPAN合同会社を設立し、HP、Blog、facebookを立ち上げ、ネット上でのクラウド・ファンディングの仕組みを取り入れることとした。②については、ADBOATオフィシャルサイト内で漁や支援船の様子などを紹介することで支援先と支援企業のリアルタイムなコミュニケーション手段を構築し、港町の復興を一緒になって実感できるような形とした。③については、菅原靴店の顧客であった漁師らと協力し、各地の漁協等とコミュニケーションをとって、各港のリーダーとの意見交換を粘り強く続けた。また、漁師にとっては、漁船は白いもので、広告を張ることはタブーであり、FIカーのように広告を張った漁船の格好よさを理解してもらうことに一番苦労した。これについては、佐々木氏が自身の船を第一号のADBOATとすることで、“カッコ良さ”がようやく理解された。また、資金の配分については、地元漁協に調整してもらうことでスムーズな資金配分を実現した。④については、(有)菅原靴店の菅原社長のネットワークを活かした。菅原社長は、イタリア留学の経験と本業の靴店で広げたイタリアメーカーとのネットワークを利用し、イタリアからの靴の直接仕入れ、ファッションコンサルティング、ファッション雑誌での情報発信等を行っており、ファッション業界に豊富な人的ネットワークをもっていた。ファッション業界には、業界の特性上“カッコ良い”、“世界初”の新しいものを求めるチャレンジ精神があり、柔軟でしかも意思決定が早い。このため、取引先のイタリアのメーカーからの支援に加え、国内のファッション関係者など感度の高い業界から支援を受けることができた。企業コラボレーションの取り組み事例としては、カジュアルブランドメーカーで、ADBOATとのコラボグッズとして復興支援パーカー、トートバック等を販売している事例がある。また、既存アイテムの売上の一部を支援に充てるスキームをつくり、漁船の店頭展開用POPやイメージ画像を活用することにより、復興支援だけでなく、既存アイテムの販売促進に貢献した事例もある。それ以外にも結婚式場等でADBOAT支援とともに三陸食材を使った復興支援ウェディングを挙げた事例もある。 現在の問題は、震災から時間が経ち、お金の集まりが以前に比べて鈍っていることである。この対応として、まずは、ファッション業界で資金集めパーティをやる予定だ。地域振興でも、“カッコ良く”ないと世界から興味をもってもらえず、資金もビジネスも集まらない。今後も、被災地支援、地域振興について本物志向でリアリティをもたせる取り組みを続けていくという。なお、現在、その一環として地元漁師や地元政治家等をドレスアップし、“カッコ良く”することで、地域発信力を高めていく「地元の人物をカッコ良くするプロジェクト」を展開中である。 '4(エッセンス'大切なこと( 当社の取り組みは、①インターネットを利用した支援内容の「見える化」により支援にリアリティを出したこと、②支援内容の“カッコ良さ”と人的ネットワークを効果的に利用した展開に特徴がある。支援にリアリティがあることが、個人支援や企業の復興とビジネスを結びつけた「広告」活動を促進し、ファンディングも人的ネットワークを活かすだけでなく、業界特性を上手く捉えた“カッコ良さ”を重視することでファッション業界に対する訴求力を高めた点が特筆される。

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